今日、私は朝から機嫌が悪かった。
まず。夢見が悪かったこと。・・・なんか、電車で知らない酔っ払いのおじさんに、ず〜っと怒られていた。・・・・・・私、何もしてないのに!!
さらに。寝癖がきつかったこと。直すのに、いつも以上に時間がかかった・・・。でも、まだ完璧じゃないと思う・・・。
そして、上記の理由により、家を出る時間が少し遅くなってしまい・・・。焦っていた私は、見事に転んでしまった。そりゃ、もう盛大に。幸い、怪我は無かったけれど・・・周囲の人が驚いて、こちらを見ていた。・・・・・・恥ずかしい。
と思っていたら、途中で忘れ物に気がついて・・・。またダッシュで家に戻り、さらに大急ぎで学校へ向かうことになった。


「はぁ・・・はぁ・・・。」


呼吸が乱れながらも、部員の迷惑にならないように早く準備を終えようと、また私は必死で駆け回っていた。
すると、次は籠からボールをたくさん落としてしまった。・・・・・・あぁ、もう!!
そんなところを見ていたのは、いつも朝練に早く来る日吉。その日吉は、いつもの調子で言った。
・・・そう、“いつもの調子”で。


「何、馬鹿なことやってんだ・・・。」


その呆れたような、馬鹿にしたような口調で、日吉は言い放った。
いつもなら、私もここまで腹立たしいとは思わなかっただろう。でも、今日は違う。


「そんなこと言ってないで、手伝ってくれたっていいでしょ?!!」


私の機嫌は最悪だった。だから、こんなことを言ってきた日吉に、苛立ちを全部ぶつけてしまった。
・・・後から思えば、八つ当たりだと反省するけど。このときは、そんなことを考える暇が無かったんだ。
そんなことを知らない日吉は、私のきつすぎる言い方が、少し気に障ったようだった。


「・・・お前こそ。そんな言い方はないだろう。」

「うるさい、放っといて。」

「さっき手伝え、と言ったのは、お前の方だろうが。」

「手伝え、なんて言ってない。手伝ってくれてもいいでしょ、って言っただけだから。手伝う気が無いんなら、放っておいて。」

「放っておけるか、馬鹿。」


こうして、険悪なムードの中、2人でボールを拾うことになった。拾っている最中も無言で・・・。拾い終わった後も、私たちは素っ気無く言葉を交わしただけだった。


「アリガト。」

「別に。」


その後、練習中も一言も喋らず。最悪の状態で、朝練を終えることとなった。
でも、その間に私はいろいろと考えた。・・・まず、この後、私たちは一緒に教室に行くんだということ。この気まずいままでは、一緒に行きにくい。
次に、周りにも迷惑であるということ。普段、それなりに仲の良い私たちがこんな雰囲気で、さっきから先輩方も心配してくださっていることがよくわかる。
そして、何より・・・。日吉に嫌われたままでいるのは、我慢ならないということ。・・・だって、私は日吉が大好きなんだもん。
だから、私は思い切って、日吉に謝ろうと決意した。


「日吉。」


制服に着替え終わった日吉を、いつものように待っていた私は、申し訳なさそうにその名を呼んだ。すると、日吉が少し驚いたような表情を見せた後、今度は日吉も私と同じような顔で言った。


・・・。さっきは悪かった。俺が言い過ぎた。」

「私も、ごめん。今日は機嫌が悪くて・・・。」

「何かあったのか?」

「ううん。大したことじゃなくって・・・。ちょっと朝からツイてなかっただけ。だから、ごめんね?」

「いや・・・。」


そう言うと、2人で苦笑いをした。・・・これで、仲直りもできたみたい。私は安心して、ちゃんとさっきのお礼を言い直すことにした。


「さっきは、ボール拾うの手伝ってくれて、ありがとね。」

「そんなことはどうだっていい。それより、朝から何があったんだ?お前がそんなに機嫌悪くなるなんて・・・。」

「本当、大したことじゃないよ?」

「知らないまま八つ当たりされたんじゃ、俺の気分が悪い。」

「・・・・・・本当、大したことじゃないからね?」


少し日吉の言い方に苛立ちそうになりながらも、私が悪いんだから・・・と言い聞かせて、今朝のことを話した。


「――って、それだけ。それで、最終的にボールを落としたところで、日吉登場。その後は、日吉の知ってる通り。・・・ね、大したことじゃないでしょ?」

「お前な・・・。どこが大したことない、だ?」


てっきり、そんなくだらないことで・・・とか、呆れられるものだと思っていたら・・・。私の話を聞いた後の日吉は、少し怒り気味に、そう言った。


「え?大したことないでしょ??」

「はぁ?お前、転んだんだろう?なぜそれを朝練前に言わなかったんだ。」

「だって・・・怪我もないし・・・。マネージャー業に支障を来すほどじゃないから。」

「なに馬鹿なこと言ってんだ。見た目に怪我が無くても、捻挫とかになってるかもしれないだろ。・・・そんなことは、マネージャーをやってるお前なら、すぐにわかるだろう?」

「わかるからこそ、自分のことは大丈夫だって言えるの。」

「違うな。の場合、マネージャーの仕事をやらないわけにはいかないという思いから、無理をしている可能性がある。それで、自分に大丈夫だと言い聞かせ、そう思い込んでいるだけかもしれない。」

「そんなことない!」

「そう言い切れる根拠は?」

「私自身のことだから、私がよくわかってます!」

「それが思い込みかもしれねぇって言ってるんだ。」


そんなのわからないじゃない!!と言い返しかけて、気付く。・・・・・・また、喧嘩になってる、と・・・。


「・・・・・・・・・ふぅ・・・。うん、日吉の言いたいことはわかった。心配してくれて、ありがとう。でも、本当に大丈夫だから。」

「・・・そうか。」


私は少し息を吐き、気持ちを落ち着けてから、笑顔で大丈夫だと言い切った。それを見て、日吉もちゃんとわかってくれたらしかった。


「でもさ、日吉。朝のこともそうだけど・・・。むしろ、今更だとは思うけど・・・。日吉って、言い方が冷たくない?」

「・・・別に。」

「ほら!!それだよ、それ。」

「・・・・・・・・・。」


そう。何も私だけが悪いわけじゃない。いつも、そんな言い方の日吉にも、多少は非があるはずだ!と思い、私は少しだけ抗議した。


「まぁ、日吉がそんな言い方なんだっていうのは、もう慣れたし、全然嫌だとは思わないけどね。でも、こういうときは、少しぐらい優しく言ってくれないと、今みたいに言い合いになりやすいんだって。」

「・・・・・・・・・逆だ。」

「ぎゃく??」


私の抗議に対して、さらに日吉が抗議した。・・・でも、その言い方は全然強くなかった。
日吉に反対意見はあるものの、一応は私の意見を一旦取り入れてくれたのかな?


「・・・・・・・・・こういうときだからこそ、強く言ってしまうんだ。」

「・・・・・・どうして・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・・・心配だから、に決まっているだろ。」

「だったら、優しく言ってくれたっていいじゃない。」

「違う。俺は真剣に言っているんだ。」


真剣に・・・だとしても、優しく言えるでしょ。とも思うけど、誰しもこういう経験はあると思う。


「あぁ、あれだね。お母さんとかお父さんが子供を怒る時、みたいな感じ?心配だから、きつく言うってやつ。」

「・・・・・・・・・まぁ、それに近いことだ。」

「わかった。・・・じゃあ、日吉は私のこと、自分の娘ぐらい大事に思ってくれてるってことだね?」

「その表現はどうかと思うが・・・。自分の部のマネージャーを大切に思わない部員が居るわけないだろう?」

「・・・ありがとう。」


部員みんながそう思ってくれているのかは知らない。それが当たり前のように、日吉は言ったけど・・・。そんなの人それぞれだと思う。きっと、マネージャーなんて居なくてもいいって思っている部員は居ると思う。・・・残念だけど。
でも、少なくとも日吉は私のことを認めてくれたことが、素直に嬉しかった。・・・今日はいい1日になるかもしれない、なんて思えてしまった辺り、やっぱり私って単純だよね。













正直、喧嘩の理由に悩みました・・・。重すぎると解決が難しいし、だからと言って軽すぎても解決した甲斐が無いし・・・。まぁ、結局「八つ当たり」という軽い理由になってるんですけどね!(苦笑)

とりあえず、今回書きたかったのは、“真剣だからこそ、きつく言ってしまう日吉くん”でした(笑)。心配故の怒り、って私、大好きなんですよね!・・・それをもっと上手く表現できればいいんですが・・・・・・;;
なんて、言っている場合ではありませんね!ついに、日吉くんの誕生日が1週間後に迫りました!あと少し、この作品にお付き合いいただければ、と思います。

('09/11/28)